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「デジタル時代、芸術創造の新たな大循環を」開催

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芸団協CPRAは、2018年10月30日に、文化芸術推進フォーラムによる連続フォーラム『今こそ文化省!』(全6回)の第2回として「デジタル時代、芸術創造の新たな大循環を-今、実演家、クリエーターは適切かつ公平な対価を得ているか?」を、衆議院第一議員会館の多目的ホールで開催した。国会議員や関係者、学生など170余名の参加者が集まり、デジタル時代の著作権制度の課題について活発な議論が行われた。

問題提起

 はじめに、中井秀範芸団協CPRA運営副委員長による挨拶があり、続いて安藤和宏教授(東洋大学法学部)より、「Value Gap問題」、「レコード演奏・伝達権」、「私的録音録画補償金制度」の各テーマの概要が紹介された。安藤教授は世界の音楽配信市場の推移を概観したうえで、「デジタル・ネットワーク時代になり、実演家や創作者に正当な報酬が支払われると考えられていたが、そうはならなかった」として、現在の著作権制度がユーザーの利益の確保に傾き過ぎており、文化の発展のためには、実演家や創作者の利益を確保する必要があると指摘した。

Value Gap問題

 まず、安藤教授より「Value Gap問題」に関する報告が行われた。「ValueGap問題」とは、YouTubeのようなユーザーがアップロードするコンテンツのストリーミング・サービスを提供するサービス・プロバイダが音楽から得ている収益と、音楽の権利者が得ている収益とが不均衡であることを指す。具体的には、オンデマンド・ストリーミング・サービスであるSpotify等の定額音楽配信サービスでは、ユーザーひとりあたり年間20ドルが権利者に支払われているのに対し、YouTubeでは1ドル未満しか支払われていない。

 この不均衡の主たる原因は、サービス・プロバイダを保護するセーフ・ハーバー条項とノーティス・アンド・テイクダウンと呼ばれる制度にあり、同条項の下では権利者がサービス・プロバイダに削除要請の通知をして(ノーティス)、違法コンテンツがようやく削除される(テイクダウン)ため、権利者はYouTube上のコンテンツを常に監視しなければならず、過度な負担がかかっている。権利者がこの負担から逃れようとすれば、YouTubeが提示する条件を飲まざるをえず、対等な交渉が行えない現状があると指摘されている。

 安藤教授はこの問題に対する権利者の主張、Googleの主張をそれぞれ紹介したうえで、アメリカにおけるセーフ・ハーバー条項見直しに関する動向と、EUにおける最近の議論を紹介した。特にEUでは、2018年9月12日に「デジタル単一市場における著作権に関する指令案」に対する欧州議会の修正案が可決された。これはコンテンツ・フィルタリング・システムの確立を定めるものであり、「ValueGap 問題」の解決に向け、進展する可能性があることを紹介した。

 安藤教授はさらに、日本での議論の遅れを指摘し、ビジネスモデルが定額音楽配信サービスに移行することが明白であるため、動画投稿型サービスの提供者に対して早めに手を打つ必要があるとして、海外動向の調査・研究と有効な対策を講じる必要性を訴えた。

レコード演奏・伝達権

 続いて中井運営副委員長より、「レコード演奏・伝達権」について報告が行われた。レコード演奏・伝達権とは、市販された音源を店舗等で聴かせる目的で利用する場合に適用される権利である。日本では作詞家・作曲家には演奏権があるが、実演家やレコード製作者には同様の権利がない。この点、レコード演奏・伝達権は世界144カ国で導入されており、先進国で導入していないのは、日本、アメリカなど極めて少数である。また、先進国だけでなく、アジア諸国でもレコード演奏・伝達権が導入されており、韓国では2016年にレコード演奏・伝達権の範囲が拡大されている。このようなレコード演奏・伝達権は、日本も加盟している「実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)」が定める公衆への伝達権の一部として規定され、実演家やレコード製作者に報酬請求権を与えている。

 中井運営副委員長は、日EU経済連携協定(EPA)でも、日本の制度整備が遅れている点が問題視され、同協定第14章第12条では「両締約国は、レコードの利用についての保護に関する国際的な基準の重要性に十分な考慮を払いつつ、公衆に対するあらゆる伝達のためのレコードの利用についての十分な保護に関し引き続き討議することに合意する」との規定が設けられた点を指摘し、レコード演奏・伝達権の早期導入を訴えた。

 また、中井運営副委員長は、レコードの公衆への伝達に関する日本の著作権制度について、レコード演奏を無権利とする一方、ウェブキャスティングやサイマルキャスティングに適用される権利を許諾権としており、非常に複雑でバランスが悪いと指摘し、WPPTや諸外国との比較を踏まえ、レコードの公衆への伝達に係る制度全般を見直すべきであり、その際には実演家とレコード製作者が公平に「50:50」で報酬を得る制度を構築する必要があると結論づけた。

私的録音録画補償金制度

 最後に、椎名和夫芸団協CPRA運営委員より「私的録音録画補償金制度」について報告が行われた。

 日本の私的録音録画補償金制度では、著作権法の権利制限規定により、個人が家庭内で楽しむための複製を広く認める代わりに、政令で定める機器・記録媒体を用いたデジタル方式の録音・録画について、著作権者等への補償金の支払いを義務付けている。

 WIPO調査によれば、2015年における日本の一人あたりの私的録音録画補償金額は約1円であり、最も高いフランス(約446円)はもちろん、EU諸国平均(約187円)どころか、調査対象となった28カ国平均(約77円)にも遠く及ばない状況にある。この原因として、多機能機器への課金状況の違いが挙げられ、特にPCやタブレット、スマートフォン等を対象としているEU諸国との差が顕著であることを指摘した。

 また、椎名運営委員は私的録音録画補償金制度について、消費者に自由な私的複製を認める一方、権利者に補償金を得させることで両者の利益の調和を図り、著作物等の保護と利用のバランスをとる重要な制度であると指摘したうえで、「真の『文化芸術立国』実現のためにも、私的録音録画補償金制度の見直しが急務である」として、実質的に機能していない補償金制度の早期見直しを訴えた。

意見交換

 意見交換では、文化芸術振興議員連盟事務局長の伊藤信太郎衆議院議員より、科学技術の進歩に伴って視聴手段やビジネスモデルが変化し、法制度が対応できていないという課題があるが、クリエーターやアーティストに適正な還元がなければ文化芸術そのものが創造できなくなる。利害関係者が多数存在するため解決は容易ではないが、納得できるシステムの構築と、必要な法的な手当に取り組んでいきたい、との発言があった。また、同事務局次長の浮島智子衆議院議員より、本日提起された課題をはじめ、議連として様々な課題に取り組んでいきたい、との発言があり、諸課題解決と文化省創設に向けた協力が呼びかけられ、フォーラムは盛況裡に終了した。

(企画部法務課 黒田智昭)

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