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平成30年著作権法の一部を改正する法律について ―柔軟な権利制限規定の整備―

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去る5月18日、「著作権法の一部を改正する法律」が成立した。著作物等を利用するためには、権利者から許諾を得ることが原則であるが、一定の場合には、権利が制限され、許諾を得ずに利用することができる。
今回の著作権法改正の大きな柱のひとつが、この権利制限に関する「柔軟な権利制限規定の整備」である。

法改正に至る経緯

 2017(平成29)年2月、文化審議会著作権分科会「法制・基本問題小委員会」は、柔軟性のある権利制限規定の整備の在り方などについて中間まとめを行った。中間まとめに対しては意見募集が実施され、芸団協CPRAからも意見を提出した(※1)。その後、法制・基本問題小委員会は報告書をとりまとめ、著作権分科会での議論も踏まえ、同年4月に『文化審議会著作権分科会報告書』がとりまとめられた(※2)

 この報告書では、「新たな時代のニーズに的確に対応した権利制限規定の在り方等」として、技術革新により、AIやビッグデータの活用など著作物等を利用したサービスを創出し発展させるためのニーズが新たに生じていることを踏まえ、新たな利用形態に柔軟に対応できる権利制限規定を検討した。報告書では、制度設計の在り方として、権利者に及び得る不利益の度合いに応じて、「著作物の本来的利用には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型(第一層)」、「著作物の本来的利用には該当せず、権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型(第二層)」及び「公益的政策実現のために著作物の利用促進が期待される行為類型(第三層)」という三つの「層」に分類し、「第一層」及び「第二層」について、柔軟性のある権利制限規定を整備するとした。

 具体的には、コンピュータの内部などで行われる著作物のコピー等のように著作物の表現の知覚を伴わないケースなど、権利者の利益を害しない行為について幅広く権利制限の対象とすることや、著作物を検索するサービス等のために著作物を部分的に表示することなどについて権利制限規定の整備を行うと提言している(※3)

柔軟な権利制限規定の概要

 この報告書の提言を踏まえ、「著作権法の一部を改正する法律」は「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備」、「教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備」、「障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備」及び「アーカイブの利活用促進等に関する権利制限規定の整備等」を大きな柱としている。法律案は、2018(平成30)年2月23日に閣議決定された後、国会に提出され、4月17日に衆議院を通過し、5月18日に参議院で可決、成立した。

 今回の著作権法改正では、報告書にいう「第一層」及び「第二層」に該当するような、現行の権利制限規定を包含しつつ、新たなニーズに関わる利用にも対応できるよう、より包括的な三つの権利制限規定、すなわち「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」(新30条の4)、「電子計算機における著作物の利用に付随する利用等」(新47条の4)及び「電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等」(新47条の5)との柔軟な権利制限規定を新たに設けている(図)。

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〔著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(新30条の4)〕

 これまで権利制限として認められていた著作物の利用に係る技術開発・実用化の試験のための利用(旧30条の4)及び電子計算機による情報解析のための複製等(旧47条の7)に加えて、著作物の表現について人の知覚による認識を伴うことなく著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用に供する場合など著作物に表現された思想又は感情を享受し又は享受させることを目的としない利用について、必要と認められる範囲において、いずれの方法によるかを問わず、著作物を利用できるとした。ただし、著作物の種類及び用途並びに利用態様に照らして著作権者の利益を不当に害することとなる場合には対象とならない。

〔電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(新47条の4)〕

 ひとつは、電子計算機におけるキャッシュのための複製(旧47条の8)、サーバー管理者による送信障害防止等のための複製(旧47条の5)及びネットワークでの情報提供準備に必要な情報処理のための複製等(旧47条の9)といった著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合について、必要と認められる範囲において、いずれの方法によるかを問わず、著作物を利用することができるとした。

 もうひとつは、複製機器の保守・修理のための一時的複製(旧47条の4第1項)、複製機器の交換のための一時的複製(旧47 条の4 第2 項)及びサーバーの滅失等に供えたバックアップのための複製(旧47条の5)といった著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合である。このような場合、必要と認められる範囲において、いずれの方法によるかを問わず、著作物を利用することができるとしている。

 いずれの場合においても、著作物の種類及び用途並びに利用態様に照らして著作権者の利益を不当に害することとなる場合には対象とはならないとしている。

〔電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(新47条の5)〕

 電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによって著作物の利用に資する行為を行う者は、公衆に提供等された著作物について、インターネット情報検索のための複製等(旧47条の6)のほか、新たな知見又は情報を創出し、及びその結果を提供する行為であって、国民生活の利便性の向上に寄与するものとして政令で定める行為の目的上必要と認められる限度において、当該行為に付随して、いずれかの方法によるかを問わず、利用(軽微利用に限る)を行うことができる。ただし、当該著作物の公衆への提供等が著作権侵害することを知りながら軽微利用を行う場合や、当該著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合には対象とならない。

 このように新たに整備される三つの柔軟な権利制限規定は、著作隣接権の目的となっている実演、レコード、放送及び有線放送の利用にも準用されている(新102条1項)。

今後について

 「著作権法の一部を改正する法律」は、「教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備」を除き、2019(平成31)年1月1日より施行される。今回の著作権法改正には附帯決議がなされている。すなわち、「著作物の利用行為の適法性が不透明になり、かえって利用を萎縮する効果が生じたり、法の理解が十分浸透しないために誤解による著作権侵害が助長されたりすることによって、表現の自由の侵害がおき、著作物の創造サイクルが壊されることのないよう、権利者や関係団体の意見も十分踏まえたガイドラインの策定など、必要な対策を講ずること」(※4)や「現在想定し得ない新たな技術等で、著作物の軽微利用を行う必要があるものが開発等されたときは、第47条の5第1項第3号に掲げる政令について、幅広い学識経験者、権利者、インターネット事業者、開発者等の意見のバランスも考慮しつつ速やかに定めるよう努めること」(※5)について、政府及び関係者は特段の配慮をすべきとしている。

 今回の著作権法改正によって、権利侵害や、不当な著作物や実演の利用が助長されることのないよう柔軟な権利制限規定が運用されることを望みたい。

(著作隣接権総合研究所 君塚陽介)

【注】
※1:詳細は「柔軟性のある権利制限規定について~法制・基本問題小委員会が中間まとめを発表~」CPRAnews84号2頁以下(2017年4月号)を、ご参照下さい。 (▲戻る)
※2:報告書全文は文化庁ウェブサイト(http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf)をご参照下さい。(▲戻る)
※3:文化庁長官官房著作権課「著作権法制の当面の課題について」NBL1113号45頁以下(2018)(▲戻る)
※4:平成30年5月17日参議院文教科学委員会附帯決議。平成30年4月13日衆議院文部科学委員会でも同旨の附帯決議がなされている。(▲戻る)
※5:平成30年4月13日衆議院文部科学委員会附帯決議。平成30年5月17日参議院文教科学委員会でも同旨の附帯決議がなされている。(▲戻る)