CPRA news Review

他の記事を探す
カテゴリで探す
記事の種類で探す
公開年月で探す

私的録音録画補償金制度の見直しの動向

企画部広報課 榧野睦子

対価還元の手段

文化審議会著作権分科会著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会(以下「小委員会」という)では、私的録音に係るクリエーターへの対価還元について年度内に一定の方向性を出すべく、検討を行っている。具体的には、三つの手段の強み及び課題を次のように整理するとともに、課題解決のための方策及び留意事項に関して意見交換を行っている(以下枠内は小委員会第5回資料「対価還元の手段に関する検討」の概要)。

補償金制度
現行の補償金制度を改善する案

<強み>
●私的複製に関する広範な権利制限(30条1項)と権利者への不利益の補償の均衡を実現した制度である(同制度の見直しは、30条1項の在り方、可能な私的複製の範囲そのものに関わる)
●諸外国では維持されており、国際的には国民的な納得感が見られる制度ではないか
<課題>
●制度が機能していない根本原因は納得感に欠ける点にあるのではないか
●納得感が乏しいとの指摘は、分配や機器・媒体の製造業者を協力義務者としている点によることが大きいと考えられる補償金制度の改善に当たっては、汎用機器・媒体まで対象を広げていくかが大きな論点となる。この点について、専用、汎用と区分するのではなく、私的複製の実態を踏まえた柔軟な基準にできないか、との意見も出されている。その他、対象機器・媒体の決定方法や補償金の支払い義務者(「製造業者等」の位置づけ)などが論点として挙がっている。


契約と技術による対価還元
コンテンツの提供価格にあらかじめ私的録音の対価を上乗せする等、DRMの状況等を踏まえて価格設定する案

<強み>
●サービスの利便性が高くなれば、消費者に受け入れられやすい
●特に配信音楽については、技術的に対応可能である
●契約自由の原則があるため、対価上乗せを契約に含めることは可能である

<課題>
●私的録音に係る対価は補償金制度により権利者に還元されるという制度的前提がある中、提供価格への対価上乗せを契約に盛り込むのは困難ではないか
●一律の対価上乗せは、私的録音する可能性のないユーザーにも負担を課すことになり、公平性を欠くと考えられる
●図書館貸出CDや、テレビ・ラジオ放送等無料で提供されるコンテンツを想定した際には、価格上乗せ方式は困難ではないか


 この案では、契約と技術で実効性のある対価還元が実現できる領域の範囲と限界がどこまでかが問題となる。その対象となしえない範囲については、補償金制度を実効性あるものに改善する必要がある。

 なお、前期小委員会の審議経過報告によれば、消費者が入手楽曲の複製を行うことが技術的に可能となっているダウンロード型音楽配信について、現状、私的録音に係る対価は消費者への提供価格に含められておらず、音楽配信業者が権利者に支払うライセンス料等にも私的録音に係る対価は含められていない。

クリエーター育成基金
私的録音を総体として捉えた上で、その対価を文化芸術の発展に資する事業に使う案

<強み>
●権利者への正確な分配が難しい補償金方式に限界があるとした場合、クリエーターの育成等に舵を取った対価還元を志向すべきではないか
<課題>
●著作権の範囲を超える要素が多く、財源確保は課題


 現行補償金制度とは全く別の視点で、文化政策やクリエーター育成について考えるべきではないかという案であり、国民・事業者等から募る他、特定目的税による創設、さらには税制優遇等基金以外の方法も含め様々な方策が考えられる。そうした中、あくまで権利者総意の下ではあるが、現行補償金制度で設けている共通目的基金の範囲や支出割合を見直すことによってクリエーター育成の目的を達成できるのではないか、との意見も出されている。

 共通目的基金とは、著作権法の規定に基づき、私的録音補償金管理協会(sarah)が補償金徴収額の一部(2割)を支出している基金であり、把握できない権利者も含め、全権利者に資する事業を実施している。その使途は、①著作権制度普及啓発、調査研究、②著作物創作振興及び普及に資する事業、③著作権・著作隣接権保護に関する国際協力、④デジタル録音録画用機器・記録媒体開発に伴う著作権・著作隣接権保護のための技術的制限に関する調査研究及びそれらの事業への助成となっている。

 補償金制度を設けている国の中には、日本と同様、補償金徴収額の一定割合を社会文化的目的のために控除する国も多い。しかし、使途や決定者は様々であり、国の文化振興基金に拠出され全体的な文化振興事業に供される場合と、補償金管理協会又は分配を受けた集中管理団体が、主に会員を対象に社会福祉支援や制作支援、教育訓練等を行う場合とに大きく分かれる(表)。

news87_fig05.png

私的録音の実態

 第5回小委員会において、2017年度私的録音に関する実態調査の中間報告が出された。同様の調査は公益社団法人著作権情報センター附属研究所が2014年に行っているが、最新の情報に更新すべきとの前期委員会での意見を受けて、文化庁が改めて調査を行った。中間報告のうち、主に注目すべき点は以下のとおりである(なお、中間報告は文化庁ホームページに掲載されている)。

1次調査:私的録音している人、いない人を含んだ全国15歳以上の男女40,000人対象
▶2014年調査と比較して、音源の録音等を行ったことがない者の割合はほぼ変わらなかった(60.0%)。
▶録音等を行ったことがない者の割合は、年代が若いほど少なく(15~19歳:35.7%、20~29歳:50.7%、30~39歳:58.0%、40~49歳:62.1%、50~69歳:67.4%)、若年層ほど私的録音している。
▶2014年調査と比較して、音源の録音等に最も使用した機器では、「パソコン(CD等光学メディアドライブ付き)」が減少し(48.2%→38.9%)、「スマートフォン」が増加している(17.2%→26.6%)。

2次調査:1次調査でデジタル録音していると回答した者のうち、4,000人対象
▶録音を行った音源の上位は「自分が過去1年間に新規購入した市販CDから(39.0%→43.3%)」、「自分が借りたレンタル店のCDから(44.3%→ 36.9%)」となった。
▶私的録音を行った機器・媒体の1位は「パソコン内蔵HDD・SSD」と2014年調査と変わらないが、2位は「CD-R/CDRW(過去1年間に新規入手した音源:27.8%→ 20.0%、既に自分で入手していた音源:27.8%→18.6%)」から、「スマートフォン内蔵メモリー(過去1年間に新規入手した音源:22.7%→ 26.1%、既に自分で入手していた音源:22.7%→24.9%)」に変化した。ただし、音源別平均私的録音曲数は全体的に減少傾向にある。
▶65.3%が補償金の支払いが必要だと回答し、その支払い方式については、録音等に使う機器や媒体の価格に含めてお金を支払う仕組み」及び「音楽の価格に上乗せしてお金を支払う仕組み」を好む回答者が半数以上となった。

 今後は実態調査結果を踏まえて、より具体的な制度設計に議論が進むことが望まれる。