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インドにおける実演家の権利保護について

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インド著作権法における実演家の権利保護の現状を紹介するとともに、実演家の権利獲得に尽力したISRA代表理事Sanjay Tandon氏に話を聞いた。

インドの音楽産業

 約13億1千万人と世界第2位の人口を有するインド。しかしながら、レコード産業の市場規模は約1億1,160万ドルと、日本のおよそ25分の1程度しかなく、世界で19番目の規模である。65%を音楽配信売上が占めており、パッケージ売上の11%を大きく上回っている(図1)。また、世界一の映画製作本数や入場者数を誇り、映画に使われた楽曲がヒットすることが多いのも特徴だ。

図1 2016年音楽売上(※1)
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インド著作権法における実演家の権利保護

 1957年に現行インド著作権法が制定された当初、実演家の権利は規定されていなかった。1994年改正法の際に、実演家のロビー活動が実を結び、規定された。インド著作権法は、録音物(レコード)を著作物として保護しているが、実演は、著作物とは別に「実演家の権利」により保護している。

 「実演」とは「一人以上の実演家による生で行う視覚的又は聴覚的な表現」として、「実演家」には「俳優、歌手、演奏家、舞踊家、アクロバット、ジャグラー、手品師、蛇使い、講演者又は実演を行なうその他の者」が含まれるとしている。そして、実演の録音・録画など、実演家の同意を得ないで行う場合には、実演家の権利を侵害するとしていた。また、一旦実演家がその実演を映画の著作物に録音・録画することに同意すると、実演家の権利が適用されないなど不十分なものであった。

 インドは、ベルヌ条約やTRIPS協定には参加しているものの、WPPTなどの著作隣接権関連条約には加盟していない(2017年12月末現在)。しかしながら、将来のWPPTなどへの加盟を見据えて、2012年改正法が成立し、世界的に見ても手厚い実演家の権利保護が図られた。

 まず、実演家の権利を、その実演の録音・録画や公衆への伝達などを許諾する排他的権利に改めるとともに、実演家人格権を付与した(図2)。そして、実演家がその実演を映画の著作物に録音・録画することに書面で同意した場合には、契約に別段の定めがある場合を除き、映画製作者が実演家の権利を享受するとしつつも、実演家は使用料を受けることができる権利を有するとした。さらに、実演家は、その排他的権利を他人に譲渡、移転することができるとしつつ、映画の著作物や録音物に実演が収録された場合には、当該映画の著作物や録音物の利用に対して使用料を受けることができる権利を有するとした。この権利は譲渡や放棄することができず、集中管理団体にのみ譲渡することができるとしている。

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ISRAによる権利管理の現状

 ISRAは、2012年改正法を受けて、2013年に設立され、実演家の使用料を受けることができる権利を管理している(※2)。SCAPRの賛助会員にもなっており、海外の実演家団体との双務協定締結にも取り組んでいる。

 2017年9月末現在、ISRAに委任している歌手(コーラスを含む)の人数は310人だが、彼らの歌唱は、商業的に利用されている歌唱の約95%を占める。

1 徴収
 ISRAでは、実演の商業的利用に対して、使用料を支払わないバーやレストラン、ナイトクラブを裁判所に訴えることによって、実演の商業的利用には使用料が必要であることが裁判所でも認められた。

 使用料規程は政府に届け出る必要があるが、許可を受ける必要はない。いくつかの使用料規程をウェブサイトで公開しているが、実際の徴収に至っているのは、放送や演奏などにおける実演の利用である。ラジオ放送からの使用料は、事業収入に一定料率を乗じる方法のほか、1曲ごと、又は時間単位での算出方法もある。演奏では、職員数も僅かなため、現在はデリーとボンベイでしか徴収できていない。徴収コストと、小規模零細な店舗から、どのように徴収するかが将来の課題となっている。

2 分配
 2016年度初めて分配を行った。今後は、年1回の分配を予定している。徴収した使用料から一定の手数料のほかに福祉基金(Welfare Fund)を控除している。この福祉基金は、貧しい歌手の医療費などに使用する。非委任者分については3年間分留保し、委任がなければ、福祉基金に組み入れることになる。既に実演家データの整備を開始しているが、インドではヒンディー語や英語のほか、多種多様な言語が使われているため、人名表記を整えるのが極めて大変な作業となる。(著作隣接権総合研究所 君塚陽介)

【注】
※1:「2016年世界の音楽産業」The Record 2017年6月号4頁。 (▲戻る)
※2:http://isracopyright.com (▲戻る)

インタビュー
Pay or Sue‼ 強い姿勢で臨む
ISRA代表理事
Sanjay Tandon

 実演家の権利保護のためにロビー活動を始めたのは、1992年に開催されたセミナーでのある大臣の発言がきっかけだ。その大臣は「実演家は、単なる道具に過ぎないのだから、権利を与える必要はない」と発言した。歌手でもある私は、この発言に侮辱されたと感じ、実演家の権利獲得に向けたロビー活動を開始した。
 首相に対し、実演家に全く権利を与えられず、適切な報酬が得られていない現状を訴え、理解を求めた。首相は大ファンである歌手もそのような苦境にあることに大変なショックを覚え、すぐに法改正するよう指示した。その結果、1994年改正法で、初めて実演家の権利が認められ、2012年改正によって権利保護の実効性が確保されることになった。現在は、政府に対してWPPTをはじめとする著作隣接権関連条約への加盟を求めている。
 使用料徴収についても、日々交渉を重ねている。例えばレストランであれば、そのドリンクメニューの中で一番安いドリンクの金額を一日分の使用料の目安にしている。「自宅にお客さんがくれば、一杯の水くらい無料で出すでしょう。同じ金額で、世界中の曲を流すことができる。安いものでしょう。」と説得する。インドは広大な国なので、一軒一軒は少ない徴収額でも、全体では大きな額になる。
 これまでも、徴収に応じなかったレストランやバー、ナイトクラブを裁判所に訴え、勝訴してきた。制度があっても、戦わなければ誰も払ってくれない。"Pay or Sue(支払え。さもなくば訴えるぞ)"の精神だ。