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「バリュー・ギャップ」問題の解決に向けて ~その後のEUでの検討状況~

企画部広報課 榧野睦子

2016年、全世界音楽売上は前年に引き続きプラス成長となった。このうち音楽配信売上は17.7%増となり、総売上の約半分を占めた。中でもストリーミング売上は60.4%の伸びを見せ、音楽配信売上全体の58.5%を占めるまでになっている(※1)。これらの数字からも、フィジカルからデジタル、ダウンロードからストリーミングへと音楽視聴の流れが変わっていることがわかる。そうした中、ストリーミングサービスに関し、「バリュー・ギャップ」の問題が顕在化していることをCPRA news vol.83(2017年1月)で紹介した。今回改めてその実態を紹介するとともに、EUでの進展について報告する。

「バリュー・ギャップ」問題とは

 「バリュー・ギャップ」とは、YouTubeのようなユーザー・アップロード型ストリーミングサービスが音楽から得ている収益と音楽業界、すなわち権利者に還元される収益とが不均衡であることを指す。国際レコード産業連盟(IFPI)によれば、サブスクリプション型ストリーミングサービスも行っているSpotifyはレコード会社に対し、ユーザー一人当たり年間20ドル支払っているにも関わらず、YouTubeは1ドル未満しか支払っていない(図1)。ある論文によれば、YouTubeが適正な料率で使用料を支払えば、使用料収益は年間6億5千万ドルから10億ドル以上まで増加するという(※2)

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 このような大きな差が生まれる要因として、YouTubeのようなサービスプロバイダに「セーフハーバー」条項が適用され、自分のサイトにアップロードされているコンテンツが権利侵害にあたるとの削除通知を権利者から受けた際、著作権侵害か否かの実体的判断をせずに、直ちに削除すれば(ノーティス・アンド・テイクダウン手続)、金銭的賠償責任を負わず、差止も一定の範囲に制限されることが挙げられている。

 つまり、権利者から許諾を得ずにアップロードされた音楽動画について、アップロードしたユーザー本人は法的責任を負うが、YouTubeは「セーフハーバー」条項により責任を負わない。そのため、権利者側はYouTubeが提示した条件を飲んでライセンス契約を結ぶか、契約せずにノーティス・アンド・テイクダウン手続を取るか、いずれかの選択を迫られることになる。過去の判例では、URLで侵害コンテンツを特定して通知することが求められている。したがって、YouTubeが通知に基づき削除したとしても、別のURLでアップロードされている同じ侵害コンテンツは削除されず、また一度削除してもすぐにアップロードされてしまうため、権利者側の負担は大きなものとなる。2008年、契約交渉で決裂したワーナーミュージックがYouTubeから自身の音楽動画を引き上げるという強硬手段に出たが、ノーティス・アンド・テイクダウン手続の負荷の重さから一年後YouTube側の提示する条件を飲んだこともあるという(※3)

 このような音楽業界側の主張に対し、YouTubeは次のように反論している。第一に、他のプラットフォームと異なり、YouTubeは誰がアップロードしたかにかかわらず、その音楽の権利者に還元している。ファンがアップロードしたコンテンツからの収益が、YouTubeから得られる音楽産業の収益の約50%を占めているという。第二に、Spotifyのようなサブスクリプション型サービスではなく、YouTubeと同じ広告型サービスであるラジオと比較すべきである。ラジオはアメリカだけで音楽消費の25%を占め、毎年350億ドルもの広告収入を得ているにも関わらず、音楽産業に1ドルも支払っていない。その理由として、ラジオは音楽産業にとってプロモーション・ツールだからだ、と言われる。そうであるならば、誰でもアップロードでき、10億人以上の人に聞かせることができるYouTubeは、ラジオよりハードルの低いプロモーション・ツールであると主張する。最後にYouTubeの人気を支えるのは音楽コンテンツだとの批判に対し、Spotifyユーザーは音楽聴取に月平均55時間費やすのに対し、YouTube利用者は月1時間しか音楽を視聴するのに費やさないとする(※4)。このようなYouTubeの反論に対するIFPIの主張は次のとおりだ。調査によれば、YouTubeを音楽視聴に使用しているユーザーは全体の85%であり、そのうち76%はすでに知っている音楽を聴いている。したがって、YouTubeの人気を支えるのは、やはり音楽コンテンツであるし、プロモーション・ツールの役割を果たしていない(※5)。日本においてもYouTubeは音楽を聴くのに最も利用されるツールとなっている(図2)。

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EUでの検討状況

 このような状況に対し、多くのアーティスト、レコードレーベルその他の権利者が声を上げ、EU及びアメリカで法改正等の検討が進んでいることはCPRA news vol.83でも述べた。このうちEUについては、欧州委員会が2016年9月、欧州議会及び理事会に対し、"Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on Copyright in the Digital Single Market(デジタル単一市場における著作権指令案)"を提出した。しかし、欧州議会法務委員会は、昨年3月に報告者(rapporteur)が指令案への修正報告案を提出したものの、その後の調整が長引き、当初予定されていた10月の投票は見送られた。

 修正報告案では前文38第三段落及び13条1項を修正し、それらの規定が適用されるサービスプロバイダーの範囲を「ユーザーがアップロードしたコンテンツを公衆に利用可能化することに積極的かつ直接的に関与し、かつこの行為が単なる技術的、自動的かつ受動的な性質のものではない」プロバイダーに限定している。また、ライセンス契約を機能させるためにプロバイダーが講じなければならない措置の例示から「効果的なコンテンツ識別技術」を削除している。次に、プロバイダーが講じる措置がユーザーの権利制限規定に基づく利用を妨げないものとするとともに、措置の適用を巡る苦情処理メカニズムの導入をプロバイダーに課す13条2項を削除している。さらに、権利者に対して自分が権利を有するコンテンツであることを正確に識別すること、及び加盟国に対してユーザーが権利制限規定に基づき著作物等を利用する権利を主張するため出訴等できるよう国内法を整備することを求めている。その他EU加盟国からは、欧州連合基本権憲章や、サービスプロバイダに対し一般的な監視義務を課すことを禁じる電子取引指令第15条に抵触するのではないか、といった指摘もあるが、国際著作権法学会(ALAI)はいずれも問題ないとの見解を示している。

 本指令案は早ければ今年初めにも採択される見通しだが、バリュー・ギャップ問題解決のリーディングケースとなるだけに、今後も目が離せない。




デジタル単一市場における著作権指令案概要

前文38
 ユーザーがアップロードした著作物等を蓄積し、アクセスできるようにしており、それにより単なる物理的設備の提供を越えて、公衆への伝達行為を行っているサービスプロバイダは、電子商取引指令第14条(「セーフハーバー」条項)に規定される責任免除の対象でない場合は、権利者とライセンス契約を結ぶ義務が課される。
 「セーフハーバー」条項の適用にあたっては、アップロードされた著作物等の表示の最適化や宣伝など、サービスプロバイダが積極的な役割を果たしているか否か確かめる必要がある。
 ユーザーがアップロードした大量の著作物等を蓄積し、アクセスできるようにしているサービスプロバイダは、効果的な技術を実装するなど、ライセンス契約を機能させるために、適切な措置を講じなければならない。そのサービスプロバイダが「セーフハーバー」条項に規定される責任免除の対象であったとしても、この義務は課されるべきである。

第13条
1 ユーザーがアップロードした大量の著作物等を蓄積し、アクセスできるようにしているサービスプロバイダは、ライセンス契約を機能させるために、あるいは(無許諾でアップロードされたと)権利者が識別した著作物等がそのサービスで利用できないようにするために、権利者との協力の下、効果的なコンテンツ識別技術の利用などの措置を講じなければならない。サービスプロバイダは権利者に対しその措置に関する情報を提供しなければならない。同様に関係する場合には、著作物等の識別や利用について報告しなければならない。
2 加盟国は第一項でいう措置の適用を巡って紛争が起こった際にユーザーが利用できる苦情処理メカニズムをサービスプロバイダに導入させなければならない。
3 加盟国は、必要に応じて、適切なコンテンツ識別技術などベストプラクティスを決めるための関係者対話を通じてサービスプロバイダと権利者間の協力を促さなければならない。

【注】
※1:「2016年世界の音楽産業」『The Record』 2017年6月号、IFPI "Global Music Report 2017" (▲戻る)
※2:T.Randolph Beard, George S. Ford, Michael Stern, 'Safe Harbors and the evolution of music retailing'( Phoenix Center Policy Bulletin No.41, March 2017) (▲戻る)
※3: P. Kafka, Warner Music Group Disappearing From YouTube: Both Sides Take Credit, ALL THINGS D(December 20, 2008)(http://allthingsd.com/20081220/warner-music-group-disappearing-from-youtubeboth-sides-take-credit). P. Kafka, Here' s Why the Music Labels Are Furious at YouTube. Again. RECODE(April 11, 2016)(http://www.recode.net/2016/4/ 11/11586030/youtube-google-dmca-riaa-cary-sherman). (▲戻る)
※4:Christophe Muller,YouTube: 'No other platform gives as much money back to creators', the guardian(April 28, 2016(https://www.theguardian.com/music/musicblog/2016/apr/28/youtube-no-other-platform-gives-as-much-money-back-to-creators(▲戻る)
※5:IFPI "2017 Music Consumer Insight Report" (▲戻る)