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私的複製補償金制度を巡る世界の動向
~ "International Survey on Private Copying-Law & Practice 2016" 公表される~

企画部広報課 榧野睦子

このほど "International Survey on Private Copying-Law & Practice 2016"(以下「International Survey」という)が公表された(※1)
オランダの私的複製補償金管理団体、Stichting de Thuiskopieが1991年に開始したこの調査は、今回で25回目となる(2012年版よりWIPOとの共同刊行)。今回は31か国(うちEU(欧州連合)加盟国21か国)の私的複製補償金管理団体へのアンケート調査結果が掲載されている(※2)。本稿ではInternational Surveyをもとに日本と各国の私的複製補償金徴収額の相違とその要因を明らかにするとともに、同制度を巡る各国の動向を紹介する。

各国における私的複製補償金徴収額の違い

news86_fig01.png International Surveyでは各国国民一人当たり徴収額を図1のとおり表している。2015年はフランスが最も高く3.38ユーロ、続いて大分下がるものの、ハンガリー、ベルギー、イタリア、フィンランドと続く。

2013年から3年間の平均徴収額を見ると、フランス、ベルギー、ハンガリーがトップ3となり、ドイツ、イタリア、フィンランドの順位が大きく変動する。2015年微収額では、0.01ユーロに満たない米国、ウクライナ、エストニアに続き、日本はギリシャと同じ0.01ユーロと極めて低い金額となっている。

EU加盟国を中心に補償金額は定額で定められているが、日本のように機器・記録媒体の販売・輸入価格に一定の料率を掛けた定率制の国や、その両方を組み合わせている国もある(表1)。日本をはじめ、定率制の国は国民一人当たり徴収額が低い。日本とEU加盟国との徴収額に大きな差があるもう一つの理由として、補償金が課金される機器・記録媒体の範囲が広いことが考えられる。EU加盟国において、タブレット、スマートフォンなど多機能機器への課金はますます増えている(表2)


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私的複製補償金制度を巡るEU加盟国の動向

EU加盟国ではキプロス、アイルランド、ルクセンブルク、イギリス、マルタを除く23か国が補償金制度を導入している。ただし、ブルガリア及びスロベニアでは、制度が機能しておらず、まったく補償金が徴収されていない。

補償金制度について条約上特段の規定はないが、EU加盟国が履行義務を負う「情報社会における著作権及び関連権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会及びEU理事会の指令2001/29/EC」(2001年発効。以下「情報社会指令」という)には規定がある。

国家予算からの補償を行う国

スペインでは、2011年、財政支出削減の一環として、補償金制度を廃止し、一般会計からの基金を用いて私的複製に係る報酬が支払われることが告知された。2012年から2015年の間、国家予算から支払われる補償金総額は省令により年ごとに定められた。2012年の補償金額は500万ユーロと、前年度の1億1500万ユーロを大きく下回った。

2013年、複数の集中管理団体が、国家予算から補償金を支払うことを定めた国王令の無効を求めて訴訟を提起した。スペイン最高裁判所は、EU司法裁判所の判断を踏まえ、国王令は情報社会指令第5条(2)(b)に違反するため無効であると判示した。

2017年7月、補償金制度を再導入する王令が制定された。8月1日の施行後1年以内に新料率が省令で定められることになっている。

一方、フィンランドでは、1984年に補償金制度が導入されたが、権利者への分配の遅延、分配額の少なさ、課金対象製品と実際私的複製に使われる製品とのかい離等の不満が関係者から多く聞かれるようになった。そのため、2014年著作権法を改正し、国家予算から権利者に補償をすることとし、2015年、2016年の補償金額は1100万ユーロと定められた。2014年徴収額が500万ユーロ以下だったことを考えると、権利者にとってもメリットがあったと思われる。改正法では、補償金額を適切なものとするため、私的複製に係る調査を行う規定が定められており、2017年の金額はこの調査に基づき決定することとしている。

その他進展が見られたEU加盟国

イギリス

イギリスでは、2014年、著作権法改正法案が国会で承認された。この改正法では新たに私的複製に係る権利制限規定を導入し、フォーマット・シフティングなど合法的に所有しているコンテンツを自らの使用だけを目的として複製することを認めた。

他人から有償又は無償で貸与された著作物の私的複製は認めず、また、私的複製をした上で、当該個人が所有するもとの著作物の複製物を他人に譲渡した場合には、その私的複製物も破棄しなければならないなどの条件を課すことで、権利者が受ける害は最小限又はゼロとなるため、情報社会指令前文(35)により補償制度の導入は必要ないとの立場を採っていた。

同年11月、この規定の導入に関し、複数の権利者団体が著作権法の所管官庁大臣を相手取り、司法審査請求を行った。司法審査とは行政訴訟の一類型で、法令や行政機関の決定、作為、不作為の違法性について争うことができるというものである。

本司法審査では、いくつかの争点があったが、審理の結果、証拠が適切でないために大臣の決定に欠陥があったという原告の主張が認められ、2015年6月、政府の決定は違法であるとする判決が出された。そして同年7月、両当事者の意見を聴取した後、追加的な判決が出され、同改正法の廃棄命令が出され、同年12月、同法は廃棄された。

オーストリア

2015年10月1日、改正著作権法が施行された。旧法では空のテープ、CD、DVDのみが課金対象となっていたが、USBフラッシュメモリ、コンピュータのハードドライブ、スマートフォンのメモリなどあらゆるストレージ・メディアが対象であると明記された。同年11月、集中管理団体と産業側との交渉の結果、コンピュータ内蔵メモリ、外付けハードディスク、タブレット、MP3やMP4ファイルが蓄積できる携帯電話等の料率が決定した。

リトアニア及びスロバキア

リトアニアでは2016年1月より新しい料率が適用され、ゲーム機やタブレット、スマートフォンも補償金の対象となった。スロバキアでは2016年1月改正著作権法が施行され、USBメモリや携帯電話、タブレット、コンピュータ・ハードディスクだけでなく、スマートTVまで補償金の対象が幅広く広がった。International Surveyは、この二か国はヨーロッパで最も進んだ補償金制度の国となった、と評価している。

フランス

2016年7月、改正著作権法が施行された。輸出及び業務上での利用に関して、補償金の返還が直接行われることとなり、またCopie Franceがその輸出状況を監視しうる範囲において事前免除されることとなった。また、クラウドへの蓄積を行うNetwork Private Video Recordingが課金対象となった。

ドイツ

デジタル業界団体、BITKOMとの協議がまとまり、スマートフォン、タブレットの料率が決定した。この合意は遡及される。

【注】
※1: WIPOウェブサイトより入手可能(http://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo_pub_1037_2017.pdf)。(▲戻る)
※2: 掲載国は次のとおり。ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、ギリシャ、フランス、クロアチア、イタリア、ラ トビア、リトアニア、ハンガリー、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、ロシア、スイス、トルコ、ウクライナ、アメリカ、カナダ、パラグアイ、ブルキナファソ、日本。ただし、ブルキナファソについては新たな情報が得られなかったため、前回調査を再掲している。また、前回調査まで回答していたスペイン及びルーマニアの情報も一部再掲されている。(▲戻る)
※3: このうち、スマートフォンとは明記されていないが、携帯電話を課金対象としている国は、ギリシャ、リトアニア、スロバキア、ウクライナ。また、スウェーデンでは、訴訟のため徴収ができていないとのこと。(▲戻る)