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私的複製に係るクリエーターの適切な対価還元を求めて
~著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等について~

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 今年3月、著作権分科会において、著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会の審議の経過等が報告された(以下「審議経過報告」という)。特に私的録音については、対価還元の手段について具体的な議論を行う必要性が明記され、今後の進展が期待される。

 私的録画補償金の支払を求めて東芝を相手取り一般社団法人私的録画補償金管理協会(SARVH)が提起した裁判は、2012年11月、SARVHの上告受理申立てが最高裁で棄却され終結した。2013年6月に知的財産戦略本部が決定した「知的財産政策ビジョン」では「クリエーターへ適切な対価が還元されるよう、私的録音録画補償金制度について引続き制度の見直しを行うとともに、必要に応じて当該制度に代わる新たな仕組みの導入を含む抜本的な検討を行い、コンテンツの再生産につながるサイクルを生み出すための仕組みを構築する」ことが取り組むべき施策として挙げられた。これを受け、著作権分科会法制・基本問題小委員会の下に「著作物等の適切な保護と利用・流通に関するワーキングチーム」が設置され、クリエーターへの適切な対価還元等について検討することとなった(2014年度よりワーキングチームから小委員会に変更)。2015年度は委員及び有識者からヒアリングを行い、私的録音・録画におけるクリエーターへの対価還元の現状把握に努めた。これを踏まえ、2016年度小委員会では、私的録音・録画それぞれのクリエーターへの対価還元の現状を整理した上、「補償すべき範囲」について議論を行った。その結果をまとめたのが、「審議経過報告」である。

「審議経過報告」の概要

補償についての基本的な考え方
 補償すべき範囲を検討するにあたり、「審議経過報告」では、まず基本的な考え方を整理した。補償が必要となるのは、権利制限規定により権利者に不利益が生じている場合とした上で、不利益とは何か検討した。その結果、権利行使が制限されていること自体が権利者にとっての不利益であると法的には評価されるとした。その上で、個々の利用行為としては零細な私的複製であっても、デジタル技術の発達により社会全体としては大量の録音物・録画物が作成・保存されることとなるため、経済的補償が必要であると整理された私的録音録画補償金制度導入時の検討を振り返り、今なお社会的に大量の私的複製が行われている状況を鑑みれば、なお補償が必要な程度の不利益が権利者に生じていると考えられるとした。そして、権利制限の範囲が狭まることは利用者にとっても望ましくないのだから、他国に比べ射程の広い第30条第1項を維持する前提で、権利者への補償の在り方を検討することが適当であると結論付けた。

音楽コンテンツの私的録音に係る「補償すべき範囲」について
 消費者が音楽コンテンツを入手する主な流通形態のうち、一般的に複製防止措置が講じられているストリーミング型配信を除く、パッケージ販売、ダウンロード型音楽配信及びパッケージレンタルについて私的録音に係る対価は支払われておらず、補償の要否を議論する必要があると明確に整理された。

 一部の委員からは、自身が購入した音楽コンテンツを複数の機器で視聴するための私的録音、いわゆるプレイスシフトや購入した音楽のバックアップのための私的録音については複製の性質に鑑み、補償は不要なのではないかとの指摘があった。しかし、権利制限規定の下で行われている以上は法的な不利益が権利者に生じていると考えられることから、「補償すべき範囲」に含まれうるものと結論付けられた。

 またDRMがかかっていない状況で提供されるコンテンツについては、私的録音録画補償金制度が機能していないことを前提とすれば、経済的に合理的な判断として私的複製が行われることを見込んだ価格設定としているのではないかとの指摘があった。これについても、たとえ機能していないにしても、私的録音に係る対価は補償金制度により権利者に還元されるという制度的前提が存在していることを踏まえれば、このような評価は妥当しないとした。

 インターネットクラウドへのコンテンツの複製については、平成26年度の小委員会報告書での整理に基づき、補償の対象となり得ると整理した。

 ダウンロード型音楽配信サービスでは、多くの場合一課金につき複数台のデバイスでダウンロードできるマルチデバイス・ダウンロードサービスを提供している。そのため私的複製は稀ではないか、との意見と、サービスの範囲外で私的複製が行われているとの意見の両方が出された。

動画コンテンツの私的録画に係る「補償すべき範囲」について
 動画コンテンツの流通においては、DRM技術により消費者の私的複製を禁止する措置が採られている場合がほとんどである。唯一私的録画が生じうる放送においては、無料放送でダビング10が、有料放送でコピーワンスが採用されることが一般的だが、いずれにおいても放送事業者から権利者に支払われる対価には消費者が行う私的複製に係る対価は含められておらず、補償の要否を議論する必要があると整理された。その上で、(i)放送波の最初の録画、(ii)権利者がDRMを自由に選択できる場合に、選択されたDRMの範囲内で行われる私的録画、(iii)コピーネバーの運用が可能となっているペイパービューについて、「補償すべき範囲」に関し出された意見をまとめた。

検討の背景にあった私的録音の実態と補償金額の減少


 ストリーミングサービス等が増え私的複製は少なくなっていくだろうとの主張もある中、依然として大量の私的複製が行われていると認められたのは、データに根ざした権利者の主張があったからであろう。「私的録音録画に関する実態調査報告書」では、男女年齢層別の人口構成を踏まえたサンプル数へのアンケート調査を行った。その結果、過去1年間でデジタル録音(コピー、ダウンロード)を実施した人は、全体の約40%であり、年代別では、若年層の方が録音経験率が高く、30歳未満では、50%を超えている。また、過去1年間の録音音源のうち、新規入手の音源では、「自分が借りたレンタル店のCD」が44.1%で最も多く、複製の大半は私的録音であることが明確となった。実態調査から得られた平均保存曲数、録音経験者率及び総人口を掛け合わせることで、国民全体の1年間の音楽CDからの録音回数は約58億曲、国民全体の音楽データ保存総数は約583億曲であると試算できた。

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 「日本のレコード産業2017」によれば、2016年の音楽ソフト(オーディオレコード+音楽ビデオ)総生産は、数量で前年比95%、金額で97%となった一方、有料音楽配信売上は前年比112%となったものの、依然として音楽ソフトが全体の82%を占める状況である。小委員会でも指摘があったとおりサブスクリプションサービスは伸び続けており、有料音楽配信売上金額のサービス別比率では初めてシングルトラックを上回ったが、全体の38%に留まっており、大量の私的複製が行われる状況に大きな変化はないと思われる。

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 このような私的複製の量に比べ、徴収される補償金額は激減している。裁判の影響で私的録画補償金額は2013年度には0円となり、SARVHは2015年3月末をもって解散した。一方、私的録音補償金徴収額もピーク時の3%程度まで激減している。(企画部広報課 榧野睦子)

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インタビュー:
審議経過報告は大きな前進
対価還元の手段の議論が始まる今こそ正念場


 小委員会では、クリエーターへの適切な対価還元に関する主な観点を、「私的録音録画に係るクリエーターへの対価還元についての現状」、「補償すべき範囲」、「対価還元の手段」の三つに分け、段階を踏んで議論してきました。

 私的録音録画補償金見直しの議論は長年行われてきましたが、これまで権利者と消費者、メーカー間の対立構造が解消できず、議論が進まない状況でした。しかし今回は権利者の従来の主張に概ね沿った審議経過報告が、中立的な立場の有識者委員からの支持も得た上でとりまとめられました。補償金制度に反対する立場からは主張を裏付ける客観的なエビデンスが一切示されなかった一方、権利者側は、実態調査等のデータを提示しながら主張を展開できたことが大きかったように思います。

 権利制限規定により消費者の利便性を高めることで権利者もビジネスを行ってきたのだから不利益は生じていない、あるいは購入した音楽を様々なデバイスで視聴する時代において、複製が大量に行われるのは当然であり、これを不利益というのは納得できないと主張する委員もいた中、「私的複製に対して権利行使が制限されていることは権利者にとっての不利益であると法的には評価される」と明記されました。当たり前のことではあるのですが、これまでの報告書等にみられるような両論併記の曖昧な内容と比べて、大いに評価できるところです。

 委員からは、サブスクリプションサービス等の私的複製を必要としない新たな音楽サービスの提供が増えていることから、私的複製の量は今後減少するのではないかとの指摘もありました。以前も、DRM技術が進展して、権利者が複製をコントロールできるようになるため、補償の必要はなくなるのではないか、と主張されたことによく似ています。それから10年が経ちましたが、今音楽はおおむねDRMフリーで流通しています。そのような予測できない将来を前提として議論している間にも、権利者の得べかりし利益は日々拡がるばかりです。現状に即した制度設計を早急に進めてほしいと思います。

 権利者は、これまでCULTURE FIRST等の場で新たな補償制度について提言してきましたが、クラウドサービスの浸透など状況は変化し、ステークホルダーも増えていることから、こうした状況を踏まえて、できるだけ早く現実的な解を提示する責任があると思っています。また、自由に私的複製できる環境を維持したい点で権利者も消費者も思いは一致しています。ただ、それがきちんと消費者に伝わっていない。こちらの主張を正しく伝え、国民の理解を得る努力も必要です。

 対価還元の手段についての議論がはじまる今こそが、まさに正念場だと思います。


椎名和夫
芸団協CPRA運営委員
著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会委員