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トリポラールな利益状態の固定性による悲劇

大本総合法律事務所顧問弁護士 土肥一史

 知的財産権と一口に言っても、様々である。特許権は技術的なアイデアの創作としての発明を保護し、商標権は文字、図形そして立体的形状、さらには色彩や音などを保護の客体とするが、実質的な保護対象はこれら商標に蓄積されている機能を保護する。また、著作権はアイデアでなく表現形式としての著作物を保護する。こうしてみても、保護対象は様々であるが、特許権及び商標権と、著作権とで全く異なるのは、前者は事業者にのみ関係するが、後者は事業者だけでなく一般ユーザにも関係するという点である。特許権の効力は業としての実施にのみ及び、商標は業として商品等を製造などする者がその商品に使用するものをいう。これに対して、著作権の効力は業としての支分権該当行為にだけ及ぶものではないし、著作物ではその創作や利用の主体を事業者に限っているわけではないからである。

 このため、特許権や商標権の効力やそれらの制限を拡張し縮小する場合であっても、その結果は一般消費者には直接関係するところではない。また、事業者に関係する権利であるということは、権利の効力やその制限による影響も権利者としてのものと、その相手方としての両方が関係することになる。ここに「諸刃の剣」の自動調整機能が働く。関係者も明日の我が身を意識せざるを得なくなり、権利の効力やその制限の問題を検討する場合、自ずと合理的な結論に達しやすい。

 他方、著作権の効力やその制限を拡張し縮小する場合、特許権や商標権で期待される自動調整機能はあまり期待できない。著作物の創作者はいつも権利者であり、事業者はいつも著作物の利用者であり、立場の相互互換性がない。加えて、一般ユーザも権利の効力やその制限に直接影響を受け、万人が創作者の時代とはいえ、商業ベースで利用されるような創作物については、エンドユーザであることはほぼ変わらない。

 この結果、権利の効力やその制限が審議会レベルで議論されると、権利者、利用者そして一般ユーザの意見が対立し、なかなか合理的な結論に達することができないことが起こる。いわゆる「トリポラールな利益状態の固定性による悲劇」である。権利者も、利用者もそして一般ユーザも、審議会レベルでの発言は背後に派遣されている団体の「熱い」要望を背負ってのものとなり、容易に譲れないことは理解に難くない。しかし、それでは物事は前に進まない。団体の利益を背負う委員であっても、本来、その有する豊富な経験や高度の識見に期待され選ばれているはずである。

 デジタルネットワーク技術の中で、著作権制度は様々な課題にさらされ、喫緊な解決が求められている問題は多い。そうした問題の1つとして、クリエータへの適切な対価還元問題もある。関係者は利己的な立場から離れ、著作物等の公正な利用と著作権等の保護のバランスを通じて、わが国の文化産業の発展に資する責務を強く意識しなければならない。